大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所 平成10年(ネ)363号 判決 2000年2月16日

控訴人(以下「一審原告」という。)

甲野花子

右訴訟代理人弁護士

板根富規

控訴人、被控訴人兼申立人(以下「一審被告」という。)

株式会社メンテナンス広島

右代表者代表取締役

渡部正行

右訴訟代理人弁護士

風呂橋誠

被控訴人兼相手方(以下「一審参加人」という。)

乙川春子

右訴訟代理人弁護士

谷口玲爾

主文

一  一審原告及び一審被告の各控訴を棄却する。

二  一審被告の原判決の仮執行宣言に基づく給付の原状回復及び損害賠償を求める申立を棄却する。

三  前項の部分に関する訴訟費用は、一審被告の負担とし、その余の当審における訴訟費用は、一審原告及び一審被告の負担とする。

事実

第一  申立

一  一審原告の控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  一審被告は、一審原告に対し、金一四四〇万円を支払え。

3  一審参加人の請求を棄却する。

4  訴訟費用は、第一、二審とも一審参加人の負担とする。

二  一審被告の控訴の趣旨

1  原判決中、一審被告の敗訴部分を取り消す。

2  一審参加人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも一審参加人の負担とする。

三  一審被告の仮執行宣言に基づく給付の原状回復及び損害賠償を求める申立一審参加人は、一審被告に対し、金一五〇三万〇〇〇四円及びこれに対する平成一〇年一〇月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  当事者の主張

次に、付加又は訂正するほかは、原判決「事実 第二 当事者の主張」欄(原判決四頁六行目から一〇頁四行目まで)記載のとおりであるからこれを引用する。

一  原判決五頁七行目から八行目までを、次のとおり改める。

「5 一審原告は、昭和五一年ころから太郎と同居し、男女関係はなかったものの、事実上の夫婦として生活し、財布を一つにして、太郎の収入により生計を維持してきた。」

二  原判決五頁一〇行目から末行にかけての「太郎と内縁関係にあった頃までには」を「太郎と同居を始めた頃までには」に改める。

三  原判決六頁二行目の「その後、」から四行目までを、次のとおり改める。

「その後、太郎は、一審参加人に対し、調停において要求された慰謝料金二〇〇〇万円を分割で支払うこととし、昭和五三年一二月から平成四年六月一五日まで、自らが受け取っていた厚生年金をそのまま渡す方法により合計金二一六八万六五六七円を支払った。この間、一審参加人と太郎とは、前記別居以降、同居したこともなければ、同居の話合いもなかった。

以上のことからすると、一審参加人と太郎との間には、離婚することについて黙示的な合意があり、これに伴う財産上の清算がなされたと同様に評価すべき事情があるものというべきである。」

四  原判決七頁五行目の後に行を改め、次のとおり加える。

「 その後、一審原告と一審参加人との協議が整わなかったため、一審被告は、平成一一年三月二七日の株主総会において、本件退職慰労金の支給対象者が一審原告であることを確認する旨の総会決議を行い、現在では、本件退職慰労金の受給者が一審原告であるとの明確な意思を有している。」

五  原判決七頁九行目を、次のとおり改める。

「(一)(1) 本件退職慰労金は太郎の相続財産に属する。

本件退職慰労金は、太郎の一審被告在任中の功労に対する報酬、対価として、株主総会において決議されたものであり、本件退職金規程は適用されないから、太郎の相続財産とみるべきであり、太郎の相続人に相続されるべきものである。

(2) 遺産分割協議の成立」

六  原判決八頁四行目を、次のとおり改める。

「(二) 仮に、本件退職慰労金が太郎の相続財産でないとしても、その受給権は一審参加人に属する。」

七  原判決八頁七行目の「婚姻費用の分担として」から八行目までを、次のとおり改める。

「婚姻費用の分担として厚生年金を全額給付しているのであるから、一審参加人は、太郎の収入により生計を維持していた者として、本件退職金規程五条に定める遺族に該当する。これに対し、一審原告と太郎との間には男女関係はなく、一審原告は、事実上の配偶者とはいえず、また、一審原告は、一審被告から、平成八年に限っても九三六万円の給与を得ており、太郎の収入により生計を維持していたとはいえないから、本件退職金規程を適用した場合においても、一審原告に本件退職慰労金の受給権はない。」

八  原判決九頁八行目から一〇行目までを、次のとおり改める。

「2 請求原因2(一)のうち、(1)の事実は否認し、(2)の事実は認め、同2(二)のうち、太郎が一審参加人に対し太郎の厚生年金を給付したこと、太郎は一審原告との間に男女関係がなかったこと及び一審原告が一審被告から給与を支給されていたことは認め、その余は否認する。

厚生年金は慰謝料として給付されていたものであり、一審原告は、男女関係はなくても事実上の夫婦として生活し、太郎と財布を一つにして、太郎の収入により生計を維持していたものである。

また、労働基準法七九条が「遺族」と、同法施行規則四二条一項が「配偶者」と、それぞれ規定しているのに対し、本件退職金規程の五条一項は、「死亡当時、本人の収入により生計を維持していた遺族に支給する。」と規定しているのであるから、本件に労働基準法、同法施行規則の解釈をそのまま当てはめることはできない。一審参加人が、太郎の収入により生計を維持していたといえないことは明らかであるから、一審参加人に本件退職慰労金の受給権はない。」

九  原判決一〇頁二行目から四行目までを、次のとおり改める。

「2 請求原因2(一)のうち、(1)の事実は否認し、(2)のうち、平成九年九月二九日に調停が成立し、本件退職慰労金は全部一審参加人が取得することに確定した点は知らず、その余は認め、同2(二)は否認する。

3 一審被告は、本件総会決議においては、支給対象者と支給時期をあえて決議せず、これを一審原告と一審参加人との協議に委ねた。したがって、右協議が整わない以上、裁判所が本件総会決議の趣旨を解釈することによって、支給対象者を決定することはできないというべきである。前記一審原告に対する一審被告の認否(当審で付加した部分を含む。)で述べたとおり、一審被告は、一審原告と一審参加人との協議が整わなかったため、平成一一年三月二七日の株主総会において、本件退職慰労金の支給対象者が一審原告であることを確認する旨の総会決議を行い、現在では、右支給対象者が一審原告であるという明確な意思を有しているから、本件退職慰労金は、一審原告に支払われるべきである。」

第三  証拠

原審及び当審記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  一審原告の請求原因1ないし3(一審参加人の請求原因1)の事実(太郎が、昭和四六年六月、一審原告と共にビル清掃、ビル管理等を業とする一審被告を設立し、以来、一審被告の代表取締役としてその経営に従事してきたこと、太郎が平成八年一月一九日、死亡したこと、右死亡に伴い、一審被告は、平成八年三月三〇日、太郎の遺族に対して本件退職慰労金一四四〇万円を支払う旨の株主総会決議(以下「本件総会決議」という。)をしたこと)は、当事者間に争いがない。

二  まず、一審参加人の請求原因2(一)につき判断する。

1  太郎が、一審被告の創業者であり、平成八年一月一九日に死亡するまでその代表取締役であった事実は当事者間に争いがなく、太郎が従業員たる地位を兼有する取締役であったと認めるに足りる証拠はないから、太郎の退職慰労金の支給に関する事項については、一審被告の従業員に対し適用される退職金規程(甲第一号証)が直ちには適用されないというべきである。そして、役員に対する退職慰労金は、基本的には、在職中の職務の功労に対する報賞であると解すべきであるが、同時に、死亡役員の残された遺族の生活補償の役割を果たすことも否定することはできず、また、報賞であることが必然的に相続財産であるとの結論をもたらすわけでもなく、退職慰労金が、株主総会の特別決議により発生するものであることを考えれば、本件退職慰労金が、太郎の相続財産に属するか否かは、もっぱら、その支給を決定した本件総会決議が、太郎の相続財産とする趣旨で同人の相続人を支払対象者としてなされたか否かによって決せられるものと解するのが相当である。

2  そこで、本件総会決議の趣旨がどのようなものであったかにつき検討する。

乙第二号証の1、第三、第四号証、第五号証の1、第六号証、第七号証の1、第一三号証、丙第八号証の1、2、証人乙川一郎の証言(当審)、同渡部正行の証言(当審)及び弁論の全趣旨によると、一審原告及び一審参加人は、本件総会決議の以前から、それぞれ、一審被告に対し、自らが太郎の退職慰労金の受給権者であることを理由とする退職慰労金の請求を行っており、これに対し、一審被告は、双方に協議を求め、合意がない限りいずれにも支払わない方針を取っていたこと、本件総会決議がなされた株主総会の出席者は、当時の一審被告代表取締役柴田幸平(以下「柴田」という。)、取締役一審原告、同渡部正行、同村田政次、同宇都宮修子、同乙川一郎(一審参加人と太郎との間の長男)であったこと、この席上、柴田が、退職慰労金は本来本人に渡すべきものであり、死亡の場合には「遺族」に渡すことになるが、「遺族」の解釈について民法等と労働基準法等とでは食い違いがあるため、一審被告が判断し、裁定すべき問題ではないので、金額のみを決議し、その受取人及び支給方法については、一審原告と一審参加人との協議によって決定してもらいたい旨を説明した結果、本件総会決議のような決議がされたことが認められる。さらに、本件退職慰労金の支給決議が太郎の遺族に対してなされた事実は当事者間に争いがないところ、一審被告は、一審原告の本件訴訟提起を受けて、一審参加人及びその他の太郎の相続人に訴訟告知し、原審における第三回口頭弁論期日において、「本件総会決議において、明示的に受給権者を決定していない。一審被告としては受給権者が決定すれば、それに従う。」旨陳述した。

右認定した事実によれば、本件総会決議は、本件退職慰労金の支給対象者を「遺族」としたが、「遺族」が具体的に一審原告か一審参加人であるかについて、その認定が困難であったため、一審被告は、本件退職慰労金の具体的な受給者は、まず、一審原告と一審参加人との間で協議し、右協議が整わないときは、裁判所の判断に委ねるとの趣旨でなされたものと認めるのが相当である。

したがって、本件総会決議は、本件退職慰労金の受給者を一審原告及び一審参加人のいずれかであることを当然の前提としているから、本件退職慰労金は太郎の相続財産であるということはできない。

三  次に、一審原告の請求原因4ないし7、一審参加人の請求原因2(二)につき判断する。

1  一審被告は、右協議が整わなかった場合に、裁判所が、公権的解釈を行うことは、本件総会決議の趣旨に反する旨を主張し、平成一一年三月二七日の株主総会において、本件退職慰労金の支給対象者が一審原告であることを確認する旨の総会決議を行い、現在では、本件退職慰労金の受給者が一審原告であるとの明確な意思を有していることを根拠に、本件退職慰労金は、一審原告に支払われるべきであると主張する。

しかし、本件総会決議の趣旨は、前記認定のように解釈すべきであり(そうでなければ、一審被告は、一審原告と一審参加人との間で協議が整わず、一審原告が本件訴訟を提起した時点で、前記認定のような対応は取らなかったはずである。)、一審被告は本件総会決議によって認められる支給対象者に対し本件退職慰労金を支払う義務があるから、右一審被告の主張は理由がない。

2  そこで進んで、本件総会決議の支給対象者を一審原告若しくは一審参加人のいずれと解するのが相当かにつき検討する。

役員退職慰労金は、前記説示のように死亡役員の残された遺族の生活補償の役割を果たすことも否定できないところ、柴田は、本件総会決議に先立ち、退職慰労金は本人死亡の場合には「遺族」に渡すことになるが、「遺族」の解釈について民法等と労働基準法等とでは食い違いがあるため、一審被告としては裁定を下すことができないことを説明していることからすれば、本件総会決議は、その前提として、本件退職慰労金の受給者は、本件退職金規程を適用して決定すべきであるとされていたことが推認できるのであり、そして、役員退職慰労金の性質から見て役員死亡の場合右規定を適用することが不合理であるとは認められないから、本件総会決議における支給対象者は、本件退職金規程を準用し、その趣旨を尊重することによって決するのが相当である。

甲第一号証によると、本件退職金規程五条は、「従業員が死亡した場合の退職金は、死亡当時、本人の収入により生計を維持していた遺族に支給する。2 前項の遺族の範囲及び支給順位については、労働基準法施行規則第四二条から四五条の定めるところを準用する。」と規定していることが認められる。そして、労働基準法規則四二条一項は、「遺族補償を受けるべき者は、労働者の配偶者(婚姻の届出をしなくとも事実上婚姻と同様の関係にある者を含む。)とする。」と規定する。

そこで、一審原告と一審参加人のいずれが、太郎の収入により生計を維持していた配偶者といえるかにつき、以下検討する。

(一)  太郎と一審参加人の婚姻、別居、一審原告との同居、その後の経緯についての認定は、次に、付加又は訂正するほかは、原判決一五頁一〇行目から一九頁六行目まで記載のとおりであるから、これを引用する。

(1) 原判決一五頁末行の「丙第七号証」を「丙第六、第七、第九、第一〇号証」に改める。

(2) 原判決一六頁二行目の「Ⅰ」を「(1)」に、七行目の「Ⅱ」を「(2)」に、末行の「Ⅲ」を「(3)」に、一七頁六行目の「Ⅳ」を「(4)」に、一〇行目の「Ⅴ」を「(5)」に、一八頁三行目の「Ⅵ」を「(6)」に、それぞれ改める。

(3) 原判決一七頁一〇行目の「原告は」から末行までを、「一審原告は、昭和五一年ころ五一歳であったが、六三歳の太郎の身の回りの世話をするために同人と寝室を別にして同居し、以後太郎からその収入の管理を任され、太郎のために家事を行うなど、外見的には夫婦と同様の生活を送るとともに、同人と協力して一審被告の会社を経営してきた。」に改める。

(4) 原判決一八頁二行目を、次のとおり改める。

「一審原告が月額金七〇万円であり、一審原告の平成八年の総収入は金九三六万円であった。」

(5) 原判決一八頁三行目の「昭和五四年」を「昭和五四年一月」に改める。

(6) 原判決一八頁四行目の「話し合いがつかず」の後に「(一審参加人は、離婚による慰謝料として金二〇〇〇万円を要求したが、太郎がこれを拒否した。)」を加える。

(7) 原判決一八頁八行目から九行目までを、次のとおり改める。

「 一審参加人は、昭和四九年に大阪の長男夫婦に引きとられて後、病弱であったこともあって、自らの年金の給付のほかに、稼働して生活の糧を得たことはなく、後記のとおり平成四年六月までは、太郎から交付された太郎の厚生年金に頼る生活を送っており、右時期より後は、一審参加人自らの年金と被爆者手当で生活費を賄っている。」

(8) 原判決一九頁初行の「交付していた」の後に「(その具体的な交付時期と金額は別紙厚生年金受取額記載のとおりであり、その総額は金二一六八万六五六七円となる。)」を加える。

(9) 原判決一九頁六行目の後に行を改め、次のとおり加える。

「(7) 太郎の葬儀は、一審被告と乙川家の合同葬として営まれ、一審参加人と太郎との間の長男である乙川一郎が喪主となり、一審参加人は太郎の妻として列席し、一審原告は、一般の弔問客と同列に扱われた。」

(二)  「生計維持」要件について

(1) 一審原告は、一審原告と太郎が、財布を一つにしていたことをもって、一審原告が太郎の収入により生計を維持していた遺族に該当する旨を主張する。

しかし、労働基準法施行規則四二条二項、四三条一項において、「労働者の死亡当時その収入によって生計を維持していた者」と「労働者の死亡当時これと生計を一にしていた者」とは概念上区別して規定されていること、厚生年金法五九条一項は、遺族厚生年金を受けることのできる遺族の範囲を「被保険者又は被保険者であった者の死亡当時その者によって生計を維持した者」と規定し、同法施行令三条の一〇は、これを「当該被保険者の死亡当時その者と生計を同じくしていた者であって厚生大臣の定める金額以上の収入を将来にわたって有すると認められる者以外のものその他これに準ずる者として厚生大臣の定める者」と定めている(なお、後段について厚生大臣の定めはない。)ほか、地方公務員等共済組合法及び同法施行令にも同様の定め(この場合は自治大臣が定める金額以上の収入を将来にわたって有すると認められる者以外のものとなっている。)があること、そして、現時点で厚生大臣あるいは自治大臣の定める額は年額八五〇万円と定められていることからすると、「死亡者と生計を同じくしていた者」であっても、社会通念上死亡者とは別に独立して社会生活を送るに足りる十分な収入を得ている者は、「生計を維持していた者」からは除かれるものと解するのが相当である。そして、一審原告が、平成八年において、一審被告の取締役として総額九三六万円の収入を得ていたことが認められ、その地位が将来にわたり変動すると認めるに足りる証拠がない本件においては、一審原告が、太郎と生計を同じくしていたとしても、太郎の収入により生計を維持していた者とは認められないというべきである。

(2) 他方、一審参加人についてみると、一審参加人が、平成四年六月まで、太郎から交付される太郎の厚生年金に頼る生活を送っていたこと、その後も、右厚生年金は、太郎と一審参加人の子であり離婚して経済的に困窮していた丙山夏子に送付されていたことが認められるのであるから、これを全体として評価すると、一審参加人は、太郎の収入により生計を維持していたものと認めるのが相当である。

(三)  「配偶者」要件について

当裁判所も、本件においては、法律上の配偶者である一審参加人が、「配偶者」に該当すると認定、判断する。その理由は、次に、付加又は訂正するほかは、原判決一九頁八行目から一二頁末行まで記載のとおりであるから、これを引用する。

(1) 原判決一九頁八行目の「Ⅰ」を「(1)」に、二〇頁末行の「Ⅱ」を「(2)」に、それぞれ改める。

(2) 原判決二〇頁二行目の「被災者」から四行目の「ある場合には、」までを、次のとおり改める。

「法律上の妻が、夫と事実上婚姻関係を解消することを合意したうえ、夫の死亡に至るまで長期間別居し、夫から事実上の離婚を前提とする経済的給付を受け、婚姻関係が実体を失って形骸化し、かつ、その状態が固定化し、一方、夫が他の女性と事実上の婚姻関係にあった場合には、」

(3) 原判決二一頁七行目の「昭和五三年から」から末行までを、次のとおり改める。

「また、太郎の葬儀が、乙川家と一審被告の合同葬として営まれ、一審参加人が妻として参列したことからすると、太郎は、死亡時においても、社会的には、乙川家の家族として扱われていたことが認められ、また、一審参加人が、太郎から受ける給付によりその生計を維持してきたものであることは前記認定のとおりである。

なお、一審被告は、右給付は、慰謝料としてなされたものであると主張するが、右給付が開始されたのが、一審参加人が離婚調停を申し立てる以前であること、その支払態様が定額の長期分割給付であること、平成四年六月から後は、丙山夏子が受け取っていることからすると、一審被告の右主張は採用できない。

してみると、一審参加人が、太郎と事実上ではあっても婚姻関係を解消することを合意したとは認められず、両名の婚姻関係が実体を失って形骸化したとまではいえないので、前記例外的場合に該当するとはいえず、さらに、一審原告と太郎との同居の経緯及びその実態をも併せ考えると、本件において配偶者と認められるのは、一審参加人であって一審原告ではないというべきである。

以上によれば、本件総会決議は、一審参加人を支給対象者としてなされたと認めるのが相当である。

四  遅延損害金の請求について

一審被告は、本件総会決議が、支給時期を定めずなされたものである旨主張し、乙第四、第六、第一三号証には、これに沿う記載がある。しかし、本件総会決議には、支給時期について特段の定めはなく、本件退職慰労金請求権が、本件総会決議によって発生している以上、その支給時期は、遅くとも一審参加人が本件訴訟において、その支払を請求した時と解するのが相当である。そして、一審参加人の請求拡張の申立書が一審被告に送達された日が平成九年一〇月二〇日であることは記録上明らかである。

五  一審参加人の請求原因3の事実は、一審参加人と一審原告との間で争いがない。

六  以上によると、一審原告の請求は理由がないので棄却し、一審参加人の請求はいずれも理由があるとして認容すべきであるので、これと同旨の原判決は相当であって、一審原告及び一審被告の控訴はいずれも理由がない。

よって、一審原告及び一審被告の控訴をいずれも棄却し、一審被告の控訴が認容されることを条件とする一審被告の原判決の仮執行宣言に基づく給付の原状回復及び損害賠償を求める申立は理由がないから棄却し、控訴審での訴訟費用につき、民訴法六七条一項、六一条、六五条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉岡浩 裁判官 野々上友之 裁判官 太田雅也)

別紙厚生年金受取額<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例